大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)198号 判決

上告人

辻村栄一

代理人

木村健一

被上告人

ハマ化成株式会社

代理人

美村貞夫

主文

原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人木村健一の上告理由について。

原審の確定するところによれば、本件手形は、振出日を昭和四〇年一一月一〇日として振り出されたものであつて、その振出人としてはCEO財団事務局事務総長辻村栄一の記名があり、辻村栄一の押印があるというのであり、また、右CEO財団は、キリスト教宣教師らが中心となつて、従来社会福祉等を目的として結成されていたAMDGと称する団体を発展させ、財団法人を設立すべく企画し、その設立準備中であつて、昭和三八年八月事務所を設立し、昭和三九年八月から翌四〇年六月までの間に、趣旨に賛同する一一の会社から拠出された合計一、四五〇万円の寄附金の収受を了し、昭和三九年一月役員として理事長、理事、評議員を選出し、理事長直轄の常勤執行機関として事務局事務総長を設け、同年八月理事会において上告人を事務総長に任命し、かつ、前記寄附金中七〇〇万円を基本財産とすることを決定してこれを銀行の定期預金としたうえ、同人を中心として民法三九条、三七条所定の各項を含む寄附行為を作成し、その成案をえて財団法人設立許可申請手続を推進していたというのである。そして、その後本件手形の振り出された昭和四〇年一一月一〇日当時までの間に、右事実関係に変更を生ぜしめるような特段の事情は認められていないのである。

ところで、右認定事実によれば、右CEO財団は、未だ財団法人の設立許可を受けていなかつたとはいえ、個人財産から分離独立した基本財産を有し、かつ、その運営のための組織を有していたものといえるのであるから、いわゆる権利能力なき財団として、社会生活において独立した実体を有していたものというべきであり、本件手形も、上告人が右権利能力なき財団であるCEO財団の代表者として振り出したものと解するのが相当である。そうであれば、その代表者にすぎない上告人において、個人として、当然右振出人としての責任を負ういわれはなく、これと異なる見解にたつて、上告人に対し、右責任の存在を肯定した原判決は、法令の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法を犯したものというべきであり、この誤りは原判決の結論に影響することが明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。

のみならず、職権によつて案ずるに、原審は、本件手形金中被上告人の代位した債権額の範囲内である一、七四七、三三七円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の法定利率による遅延損害金の支払を求める被上告人の本訴請求を正当として認容したうえ上告人に対し、右金員の支払を命じているのである。しかしながら、原判決の事実摘示によれば、本件手形とは金額名一〇〇万円の約束手形五通であり、その満期も、うち一通は昭和四一年二月二八日うち二通は同年三月一五日、他の二通は同月三一日であるというのであるから、前記原判示のみによつては、原判決の認容した右請求額が、果たしてこのいずれの手形のいかなる割合による金額に相当するものかを明らかにすることができない。したがつて、原判決には、その認容した請求の特定を欠く点において違法があるものというべきであり、原判決は、この点においても破棄を免れない。そして、本件は、さらに右の各点について審理を尽くす必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条を適用して、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。(関根小郷 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例